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あまのはら補足一
ソグド人

​ヴァンダクの名前

ソグド人は、康、安、石、史、米、何、曹、畢などの、出身地に対応する姓を名乗っていました*。ヴァンダクの姓は安なので、ブハラ出身です。

​*時代による。詳しくは下記。

斉藤 達也, 北朝・隋唐史料に見えるソグド姓の成立について, 史学雑誌, 2009, 118 巻, 12 号, p. 2106-2131, 公開日 2017/12/01, Online ISSN 2424-2616, Print ISSN 0018-2478, https://doi.org/10.24471/shigaku.118.12_2106

​ちなみに、音人は母方がソグド家系だったので、父方の苗字を名乗っています。父は殿上人ですが、藤原は華々しい気がしたので橘にしました。

​ソグド人

ソグド人は、11世紀中頃まで中央アジア周辺諸国で商人として活躍していたイラン系民族です。

他にも、楽人として唐で演奏したり、突厥に仕えたりしたソグド人もいました。彼らの本拠地は現在のウズベキスタン・タジキスタンにあるソグディアナ地方ですが、唐などに移住し、独自の文化と同族ネットワークを維持したソグド人コミュニティもありました。

商人のイメージが強いソグド人ですが、当然故郷のソグディアナには王も貴族もいて、身分制社会です。ペンジケントの壁画が当時の豪奢な生活を伝えています。唐三彩のエキゾチックでワイルドなソグド人とは異なるイメージです。

 

​奴隷もソグド人の一大商品でした。ヴァンダクは母も自分も奴隷になり、母親と別の隊商に連れ立って唐に赴いたが、箜篌の才能があったので楽戸になった、という設定です。渡来した際に官位をもらって奴婢ではなくなりました(設定)

ソグド人は唐に移住し、現地社会に同化したり、独自の文化や同族関係を保ちました。安史の乱のためにソグド人が疑われ、北京ではソグド人らしき顔立ちの人は虐殺された、という話もありますが、​安史の乱後もソグド人は活動を続けていました。しかし、ソグド姓を捨てたり*、出自を隠す人も増えたようです。ヴァンダクが唐、故郷に帰れないと判断したのは、虐殺の情報だけ聞きかじったのと、殺されたり、冷遇される可能性の高い唐と、異教徒に支配され政情不安定な故郷に帰るより、家族のいる日本で琴を弾いていたいと思ってしまったからです。

*唐王朝から自軍の安姓ソグド人への賜姓は、むしろ厚遇という説もあります。

安史の乱における唐陣営下のソグド武人― 「唐・李志忠墓誌」を手がかりに ― 

山下将司 日本女子大学 紀要 文学部 (68) 35 - 54 2019年3月20日  

※唐のソグドとは必ずしもペルシア系のみを差さず、インド人なども指していました。

​ソグド人の音楽と箜篌

作中で「琴」と言っているハープのような楽器は、ソグド人も弾いていた、古代中国、朝鮮、日本で「箜篌」と呼ばれた楽器です。

ソグド人はペルシア、インド、ギリシャと共通する楽器を演奏しており、リュート、角型ハープ、鼓、横笛が彼らの主な楽器でした。

ソグドのオーケストラは7~8楽器と、中国の楽団より少ない楽器で構成されていたようです*。

*MUSIC HISTORY i. Pre-Islamic Iran, Encyclopedia Iranica

この角型ハープが「竪箜篌」として中国、日本に伝わったと言われ、

音人が弾いている琴はこの箜篌です。

陝西省の墓西域の楽器を弾く漢人の唐三彩にも、この箜篌があります。

箜篌は中国でも日本でも10世紀頃には廃れ、現代には奏法は伝わっていません。また、箜篌は中国では色々な琴を指し、

現代日本で言う琴は伏箜篌になります。

youtubeで「箜篌」で検索すると、箜篌を復興されている方の音楽*と、

中国のハープ動画がヒットします。

なお、平安中期の「琴」は弦楽器全般を指している認識なので、

作中でいう「琴」は箜篌、和琴、筝全てを包含しているつもりです。​箜箜篌が廃れた後の平安貴族が箜篌を見たら、琴と言うのではないかな、という想像でした。

​ソグド人の死後の世界

中国にあるソグド系の墓の壁画などには、楽器を演奏する人々や、宴の様子が描かれています。

ゾロアスター教の天国も「歌の家」だったので、ソグド人にとって天国とは、歌と音楽と食べ物に溢れたところなのかな、と想像しました。

ゾロアスター教徒は死後アルボルズ山*(イランにある同名の山脈と思われるが、伝説の山)と楽土を結ぶチンワトの橋で審判され、

楽土か地獄に行くそうです。

​ヴァンダクが天へ旅立つ時の台詞は、このゾロアスター教の昇天プロセスを意識しています。

高くて手出してませんが、なんとゾロアスター教の聖典アヴェスターの日本語訳があるので、詳細はそちらを見てください。

因みに、ゾロアスター教徒は鳥葬だったので、鳥葬用の塔を建てており、今も見られるそうです。

*「ALBORZ ii. In Myth and Legend」

Encyclopedia Iranica,https://iranicaonline.org/articles/alborz-myth-legend

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